「AIで業務効率化」という話は毎日のように目にしますが、実際の職場で何に使われているのかを具体的に書いた記事は多くありません。
ここでは、製造業の職場で実際に使われている用途と、使ってみて分かった注意点を整理します。特に後半の「社内文書を扱うときの落とし穴」は、導入前にはまず想像がつかない部分だと思います。
実際に使われている4つの用途
1. データの整理
形式のばらばらなデータを揃える、表を組み替える、必要な項目だけ抜き出す。地味ですが、実務で最も時間を取られている作業のひとつです。
この種の作業は、手順を言葉で説明できるのに、やると時間がかかるという性質を持っています。AIが最も素直に効く領域です。
2. 検索の代わり
キーワードを考えて検索し、複数のページを開いて読み比べる、という作業が、質問を投げるだけで済むようになります。
特に「用語は分かるが正確な定義があやしい」「この規格は何を要求しているのか」といった確認作業では、検索より速く目的に届きます。
3. 社内文書の読み取りと、規定との突き合わせ
ここが実務で効いている用途です。作成した文書が社内規定に適合しているかをAIに確認してもらう。
社内規定は量が多く、しかも普段は読まないものです。何か作るたびに全部読み直すのは現実的ではありません。結果として「たぶん大丈夫だろう」で進み、後の承認段階で差し戻される。この往復が消えます。
人が読んで突き合わせる場合、どうしても見落としが出ます。特に、自分が書いた文書を自分でチェックすると、書いたときの意図が頭に残っているため、書かれていないことを読み取ってしまいます。第三者的に読ませる、という使い方に価値があります。
4. 簡単なプログラムやマクロの作成
データ分析用の短いプログラムを書いてもらう。ExcelのVBAでマクロを作ってもらう。この用途は、影響が大きい割に語られていません。
これまで、繰り返し作業を自動化するには、まずプログラミングを学ぶ必要がありました。その学習コストが高すぎて、多くの人は手作業を続けることを選んでいたわけです。
その前提が崩れました。やりたいことを言葉で説明できれば、動くものが出てきます。「毎月手作業でやっているあの集計」を自動化できる人の範囲が、一気に広がりました。
前提:社内情報を入力できる環境かどうか
上の3番と4番は、社内の情報をAIに読ませることが前提になります。ここが使えるかどうかで、AI活用の実現範囲はまったく変わります。
重要なのは、入力した情報が社外に出ない形になっているかです。一般向けのサービスをそのまま使うのと、社外に情報が出ない契約・構成で使うのとでは、扱える情報の範囲が根本的に違います。
「AIは業務では使えない」と言われることがありますが、その多くは技術の限界ではなく、この環境が整っていないという話です。逆に言えば、環境さえ整えば、社内文書を扱う用途が一気に開けます。導入を検討する立場なら、まずここを確認すべきです。
最大の落とし穴:出てきた社内文書が最新とは限らない
ここが、実際に使ってみないと気づかない部分です。
AIに社内文書を探してもらうと、それらしい文書が出てきます。内容も的確に見えます。しかしその文書が現在有効なものかどうかは、別の問題です。
「更新年が新しい」は「内容が正しい」ではない
複数の版が存在する文書について、AIは更新年月日のような情報を手がかりに新しいものを選ぼうとします。一見すると妥当な判断に見えます。
ところが実務では、こういうことが起きます。
- 体裁の修正やファイル移動だけで更新日が新しくなっている
- 実際に改訂された最新版が別のフォルダにあり、古い版のほうが更新日が新しく見える
- そもそも廃止された規定が、削除されずに残っている
この状態でAIに探させると、もっともらしい形で古い情報が返ってきます。しかも根拠として文書名まで示されるので、確認したつもりになってしまう。手作業で探していれば「これ、古くないか」と引っかかったかもしれないところを、素通りしてしまいます。
これはAIの問題ではない
重要なのは、これがAIの性能の問題ではないという点です。
社内の情報が整理されていない、という以前からある問題が、AI導入によって表面化しただけです。これまでは、詳しい人が「あれは古いから、こっちを見て」と口頭で補正していた。その暗黙の補正が効かなくなった、ということです。
だから対策も、AI側ではなく情報管理側にあります。
- 重要な判断の根拠になる文書は、必ず原本を確認する。AIの回答は当たりをつけるためのものと割り切る
- 廃止した文書は消すか、明確に廃止と分かる状態にする。残しておくと必ず拾われます
- 版の管理を、ファイルの更新日以外の情報でできるようにする。文書内に版数と改訂日を書く、というだけでも効果があります
逆に言えば、AIを入れると、その組織の情報管理の状態がそのまま出力の質に現れます。整理されている組織ほど効果が出て、散らかっている組織ほど誤情報を掴まされる。導入効果の差は、AIの使い方より手前で決まっている面があります。
使う人と使わない人の差が開いていく
同じ環境が与えられていても、活用している人はどんどん活用し、そうでない人はほとんど触らない。この差が、はっきり見えるようになってきました。
差がつく理由は、おそらく能力ではありません。「これ、頼めるんじゃないか」と思いつくかどうかです。
一度マクロを作ってもらった経験があれば、次に面倒な作業に出会ったとき「これも頼めるかも」と考えます。その経験がなければ、これまで通り手で処理して終わります。作業自体は完了するので、困りません。だから差が縮まらない。
教育として効くのは、使い方の講習より、身近な人が実際に使っているところを見ることだと思います。「そんなことまで頼めるのか」と気づくきっかけがあるかどうか。導入を進める立場なら、上手く使っている人の事例を回すほうが、マニュアルを配るより効果があるはずです。
まとめ
- 実際の用途は、データ整理、検索の代替、社内規定との突き合わせ、プログラムやマクロの作成
- 社内情報を入力できる環境かどうかで、使える範囲が根本的に変わる
- 社内文書を探させるときは、それが最新版かを疑う。更新年が新しい=内容が正しい、ではない
- 誤情報を掴む原因は、多くの場合AIではなく社内の情報管理の側にある
- 差がつくのは能力ではなく「頼めると思いつくか」。事例を見せるのが最も効く