日本で最大の自動車製造会社のトヨタ自動車株式会社は、近年のBEV化という自動車業界の流れについていけていないのが大半の見方です。そもそもBEV(電気自動車)化は誰が嬉しいのか、なぜ推進されているのか、考えてみたいと思います。
※ この記事は2023年6月に書いたものです。3年後の状況については、末尾に追記しています。
BEV化の嬉しさ
CO2排出量の低減?
国際エネルギー機関によると2015年の世界エネルギー起因のCO2排出のうち交通部門からの排出が24%を占めており、その中で自動車が占める割合は75%となる。自動車のBEVへのシフトが脱炭素社会の実現に貢献することは確からしいです。

また、大気汚染の目線でもBEV化は貢献しそうです。大量の自動車が走行する大都市では自動車から排出される汚染物質は環境面、健康面で課題となります。日本ではそこまで意識されませんが、中国や欧州ではディーゼル車が多いこともあり、より大気汚染は深刻になります。したがって、中国や欧州でBEVへのシフトは嬉しさがあります。
日本ではなかなか意識されませんが、経済的な利点も他国にはあると思います。BEVへシフトするということは、新たな新車需要が出てくることになります。後発の自動車産業を育てたい中国などにとっては、比較的新規参入がしやすい電気自動車は魅力的なビジネスチャンスにもなり得ます。自動車産業の参入障壁を高くしていた要因の一つに、内燃機関、エンジンを作れないというところがあります。電気自動車は、内燃機関のエンジンを作る必要がなく、モーターと電池があれば自動車として走らせることができるため参入障壁が低くなったと言えます。
利用する私たちへの嬉しさについて考えてみます。まずは、維持コスト面の安さがあると思います。トヨタのハリヤーで考えてみます。ハリヤーにはBEV設定はなくPHEVのみのためPHEVで考えます。
| エンジン(駆動) | プラグインハイブリッド車(E-Four) | ガソリン車(4WD) |
| グレード | Z | Z |
| 燃料消費率 | ー | 14.7 km / L |
| 電力消費率 | 6.25 km / kWh | ー |
上記スペックの自動車の場合の維持費をガソリン代168円/L、電気代31円/kWh、年間走行距離10,000kmで計算すると
ガソリン車; 168円/L ✖️10,000km ➗14.7km/L =114,285円
プラグインハイブリッド;31円/kWh ✖️10,000km ➗6.25km/kWh =49,600円
年間64685円、月5390円プラグインハイブリット車の方が安い維持費になっています。BEVとプラグインハイブリット車は厳密には異なりますが、大方同じような値となります。(テスラのモデル3ではカタログ電費は6.7km/kWh)
※ 単価は2023年時点のものです。現在は電気料金・ガソリン価格ともに水準が変わっているため、実際に比較する際はご自身の契約単価で計算し直してください。
また、内燃機関がない分BEVはガソリン車と比較して静粛性が高いと言えます、走行時はロードノイズなどがあり大きな差を感じない場合もありますが、停車時は電気自動車はほぼ無音に感じます。静かな環境で運転できるということ利用者の嬉しさにつながります。
そして、BEV車は蓄電池としての活用もできます。災害時における電気の供給や家庭で太陽光発電などの自然エネルギーの利用など自動車が蓄電池の役割を果たすことができます。
なぜBEV化が推進されるのか
今まで述べたように、経済面からも、世界の環境面からも、利用者の利点からもBEV化には嬉しさがありそうです。しかし、トヨタ自動車の会長である豊田章男さんからは、一辺倒のBEV化に警鐘が鳴らされている。その内容としては、自動車のライフサイクルとして製造工程から排出されるCO2も加えて考える必要がある。また、各国のエネルギー事情や環境に適した自動車が必要である。という内容である。Well to Wheelで電気や燃料を生成するためのエネルギーも考慮して総合的に判断することが大切です。豊田章男さんが主張されていることは至極当然です。
それでは、BEVと内燃機関のガソリン車の製造工程を含めたCO2排出量を考えてみましょう。以下のグラフに示すように、欧州各国では、やはり内燃機関よりもBEVの方がCO2排出の面で優れています。しかし、これは同じ製造工程で同じ電力を使用したとしても、その国のエネルギーがどのように賄われているかによって変わってくることも示しています。

出典:ICCT(International Council on Clean Transpotation)「Effects of battery manufacturing on electric vehicle lifecycle greenhouse gas emissions」より

世界のエネルギーの生成方法をみてみます。インドや中国では石炭の割合が多く、欧米ではガス、自然エネルギーが多くなっていることが特徴的です。先ほど示したグラフはヨーロッパでのBEV製造を考えた場合ですが、中国などでBEVを生産する場合は、電気を製造するために多大なるCO2が排出されるため、一概にBEV化により環境面で優れているとは言い難いのが現状です。
また、上記で考えられていないのは、廃車になってからのリサイクル面です。多くが鉄からできていたガソリン車よりもバッテリーを含む危険物が多く複雑に使用されている電池のリサイクルが今後も課題になっていくことでしょう。
個人的なまとめ(2023年時点)
やはり、BEV化には政府主導で環境目標をクリアしたいという面、自国の自動車産業を強くしたいという政治的な側面が今は強く感じます。まだまだ、販売価格がガソリン車やHEV車と比べると高く、インフラなどの充電スポットも大都市圏を除いては少ないため、日本での利用者は限定的ではあります。しかし、今後は自動車の価格面が落ち着いてきてガソリン車と大きく変わらない場合、インフラ面も含めて普及が進み、BEVが日本でも当然の選択肢になってくることでしょう。
トヨタが勝てるのか、、難しいところですが、全方位で電動化を進めている会社はほとんどありません。今の急激なBEV化の流れには置いてかれていますが、トヨタは後発で他社のいいとこ取りをすぐする メーカーです。他社よりも安いけど、安全高品質の車が出てくると、先進国での信頼感が強いので、今先行している中国メーカーやテスラのシェアをうまく奪えるはずです。トヨタは今、莫大な投資を電池ぶんにしていますので、、その辺りも期待して状況を注視していきます。
個人的には電池の研究をしてきたこともあり、電池の今後の未来はすごく楽しみなので、もっと安全で、容量も大きく、出力の高い電池が製造されれば、世の中は目まぐるしいスピードでまた椅子取りゲームが始まるのではないかと期待しています。
【追記】3年後の答え合わせ
この記事を書いてから3年が経ちました。当時「トヨタは置いていかれている」というのが大半の見方でしたが、市場はその後、予想とは違う方向に動きました。
BEVの伸びが止まり、ハイブリッドが伸びた
最も大きな変化は、BEVの需要そのものが減速したことです。米国市場では2026年に入って4か月間でBEVの販売が前年比で3割以上落ち込み、シェアも低下しました。一方でハイブリッドは前年比で伸び、新車販売に占める比率を上げています。
この影響は、BEVに大きく賭けたメーカーほど深刻でした。フォードはEV事業に関連して巨額の減損を計上し、電動ピックアップの生産を中止。GMも次世代の電動トラック・SUVの開発を一時停止し、減損を計上しています。ホンダはカナダでのEV・電池拠点への大型投資を延期しました。
トヨタの立ち位置
トヨタも無傷ではありません。2026年のBEV世界生産目標を150万台から約100万台へ、およそ3分の1引き下げ、米国でのEV生産開始も後ろ倒しにしています。
ただし同時に、ハイブリッドの生産は大幅に増やす方針を打ち出しました。米国のハイブリッド市場では4割台のシェアを持ち、2位を大きく引き離しています。北米では主力車種をハイブリッド専用に切り替える動きも進んでいます。豊田章男氏は、EVの世界シェアは最終的に3割程度で頭打ちになるという見方を示しました。
結果として、当時「出遅れ」と批判されたマルチパスウェイ戦略は、リスク分散として機能したという評価に変わっています。
当時の予想は当たったのか
正直に振り返ると、当たった部分と、まだ検証されていない部分があります。
当たっていたのは、BEV化を政治的な側面から見た点です。製造工程まで含めたCO2で見るべき、電源構成によって答えが変わる、という指摘は、その後の議論でも繰り返し出てきました。環境性能の議論が電源構成の話に収束していったのは、当時の見立て通りです。
一方、「トヨタが後発でいいとこ取りをしてシェアを奪う」という予想は、まだ検証されていません。トヨタの立場が改善したのは、BEVで巻き返したからではなく、BEV市場そのものが減速し、得意なハイブリッドの出番が延びたからです。予想した理由とは違う経路で、結果だけが近い形になっています。
また、「価格が下がりインフラが整えば日本でもBEVが当然の選択肢になる」という見通しも、3年では実現しませんでした。想定より時間がかかっている、というのが実態です。
これから何を見るか
業界の見方は「電動化の放棄」ではなく「時間軸の再設定」に収束しつつあります。ハイブリッドは移行期の橋渡しであって、終点ではないという整理です。
その意味で、次の分岐点は電池そのものになります。全固体電池が量産段階に入るかどうかで、椅子取りゲームがもう一度始まる可能性があります。この点については、別の記事で詳しく書いています。