キャリアデザイン 仕事

トヨタが量産を目指す全固体電池とは

2023年6月、トヨタ自動車が2027〜2028年に全固体電池を用いたBEVに挑戦すると発表がありました。

そこで大学の時に電池研究をかじった私が少し解説します。(記事末尾に、その後の進捗を追記しています)

出典:トヨタ自動車

全固体電池とは

電池の構成材料が全て固体からなる電池のこと。どういうこと?となるという方はまず全固体の前にリチウムイオン2次電池について説明いたします。

リチウムイオン2次電池はスマホなど身近な充電できる電池として多く普及しています。モバイルバッテリーを持っている方は電池の裏側などにLi-ionとか書いてあるかもしれません。

その電池の原理について、簡単に説明します。電池の構成材は、正極、負極、電解液です。正極が電池のプラス極、負極が電池のマイナス極です。では電解液の役割は?正極と負極が電池のなかで触れないようにする絶縁、正極と負極の間のイオンの移動を助ける。この二つの役割があります。※ひとつ目は厳密には電解液を染み込ませたセパレータと呼ばれる樹脂

ひとつ目は、乾電池のプラス極とマイナス極を繋ぐと発火してしまう現象を電池内部で発生させない役割です。プラス極とマイナス極が触れてしまうと、せっかく貯めたエネルギーが放出されてしまいます。電池の内部でそうならないように電解液があります。

ふたつ目は、正極と負極の間のイオンの移動を助ける。と言われてもイメージしにくいですが、電池に充電する場合を考えてください。電池にどんどん電気を送り込んでいきます。するとどんどん電池の片方の極中には電子が増えてきます。電子はマイナスですので、プラスのものが欲しくなります。ここでプラスのものとして、リチウムイオンがマイナスが溜まってくる電極へどんどん移動していきます。この移動を電解液が助けています。電解液がないとこのイオンは移動できませんので、充電もできなくなってしまいます。

ここで、全固体電池とはそれますが、マイナスの電子とペアになるイオンがリチウムイオンなので、リチウムイオン電池と言われています。また充電が何度もできるので、2次電池とよばれ、リチウムイオン2次電池という名称になります。

ここで全固体電池に戻ると、近年電気自動車などで注目されている全固体電池は全固体リチウムイオン2次電池という名称です。

大きな枠では従来のリチウムイオン2次電池と変わりません。

大きく変わるのが、従来の電池で電解液と言われていた部材です。この電解液の機能を固体が担うリチウムイオン2次電池を全固体電池と呼んでいます。

電解液の代わりの機能を持つものを固体電解質と呼んでいます。ここでは、電解液を用いたリチウムイオン2次電池を液系電池、固体電解質を用いた電池を全固体電池と呼びます。

固体電解質は液系電池の電解液と同じ役割を持ちます。正極負極の絶縁とイオンの移動の助けです。

固体電解質は粉を押し固めたようなものです。したがって、絶縁性の役割は正極と負極の間に粉を押し固めた絶縁物があると思えば理解しやすいと思います。イオンの移動の助ける機能ですが、粉中をイオンが移動することができます。一般的にイオンという言葉はイオン水とか、空間のイオン除菌とか、固形物の中を移動するイメージはないかもしれませんが、事実動くことができます。

ではここからはなぜ全固体電池が次世代の電池として期待されているのか説明します。

よく言われる全固体電池の利点は

  • 高い安全性
  • 高いエネルギー密度
  • 広い動作温度範囲

になります。それぞれ解説します。

高い安全性

従来の液系電池では、液体の電解液が使われていました。この液体は有機溶媒を含んでおり、エタノールなどを想像してもらうとわかりやすいですが、揮発しやすい性質があり、高温になるとガス発生の懸念があります。また、ガスは燃えやすいので、酸素と着火源があると燃えやすいという欠点がありました。

実際の製品ではそうならないように、充電状態などを制御することで、何重にも安全に作られています。

全固体電池にすると、この液体を使用しなくて済みますので、安全性が従来のものよりも高いと言われています。

ここでは詳しく述べませんが、固体電解質の種類によっては、電池に穴が開くと大気中の水と反応してガスが発生することはあるので、完全というわけではありません。

高いエネルギー密度

電池のエネルギーは、電池の電圧と容量から決まります。電池の電圧が高く、電池容量が大きい方がよりエネルギー密度が高いということです。

電池の電圧と容量は、正極に使う材料と負極に使う材料に大きく依存します。

全固体電池では基本的に従来の液系電池と正極、負極に使う材料自体は大きくは変わりません。

電解液から固体電解質になったことで、今まで使いきれていなかった材料のポテンシャルを引き出すことができるようになるという部分がエネルギー密度の向上に寄与します。

安全性のところで少し話しましたが、電池を安全に使用するために、制御により、わざと電池電圧を低くしたりしています。これは、電池電圧を高くしすぎると電解液が分解して、ガスが発生してしまう不安全に繋がるからです。固体電解質では、この「溶媒が分解してガスになる」という形の劣化は起きません。

ただし、固体電解質なら電圧をいくらでも上げられる、という話ではありません。固体電解質にも電気化学的に安定でいられる電位の範囲があり、特に硫化物系はこの範囲が狭いことが知られています。高電位の正極材料とそのまま接触させると、界面で固体電解質が分解してしまいます。そのため実際には、正極活物質の表面にニオブ酸リチウムなどの被覆層を設けて、直接触れないようにする工夫が必要になります。この被覆をいかに薄く均一に付けるかが、量産上の課題のひとつになっています。

他にも、より高い電圧に適した正極材料があったり、今まで電解液とは相性が悪くて使えなかった材料を負極に使えるようになったり、さまざまな面でエネルギー密度向上が期待されます。

また、電解液がなくなることで、電池のパッケージングとしても小さくできたりするので、より小さいスペースで今までよりも多くの電池を詰め込むことができるので、全体としてのエネルギー密度は向上するでしょう。

広い動作温度範囲

すでに前の話で出ていますが、液系電池で使用する電解液は温度が高くなると揮発しやすくガス発生など安全面で制限されていたり、温度が低くなると極端な話凍ってしまったりすることで電解液としての機能役割を果たせなくなります。

全固体電池の固体電解質では、固体なので、凍る・揮発するという形で機能を失うことはありません。そのため、液系電池よりも広い温度範囲を狙えると期待されています。

ただし「温度の影響を受けない」わけではない点は補足しておきます。固体電解質のイオン伝導度も、温度が下がれば大きく低下します。加えて低温では電極と固体電解質の界面の抵抗も増えるため、低温での出力低下という課題は残ります。液系のように相変化で機能を失うことはない、というのが正確な理解です。

課題

全固体電池は将来の電池として期待されていますが、まだまだ量産化されていないということで、量産化の課題を挙げます。

工法が確立されていない

全固体電池を電気自動車などに載せようと思うと、大量の電池を作る必要があります。性能を落とさずに量産する工法はまだ開発段階です。

全固体電池の性能を出すためには、正極材料-固体電解質、固体電解質-負極材料を密着させる必要があります。液系電池では電解液でしたので、密着させることは容易でした。しかし、全固体電池ではその名の通り固体です。固体同士の密着を確実に取ることが今までの電池製造プロセスとは大きく異なります。

ここは強調しておきたい点です。全固体電池の解説記事の多くは材料の性能に焦点を当てますが、実際のボトルネックは材料そのものよりも、この界面をつくる工程にあります。「良い固体電解質が見つかれば実用化される」という理解は、実態からずれています。

コストが高い

これは量産することである程度安くなるかもしれませんが、全てが特注設備、材料になってくるとなかなか安くなりません。また、製造する上で固体電解質が大気中の水分と反応するということもネックとなっていそうです。水分を製造プロセス中で管理する必要があるため、工程や空間の水分管理設備が必要になります。


【追記】その後の進捗

この記事を書いてから3年が経ちました。目標時期そのものは変わっていませんが、体制面はかなり動いています。

サプライチェーンが形になってきた

トヨタは単独ではなく、役割分担で進める体制を採っています。固体電解質は出光興産、正極材は住友金属鉱山、セル製造はPPEES。この垂直連携が現在の構図です。

特に材料側の動きが具体的になってきました。出光興産は2026年1月に固体電解質の大型パイロット装置について最終投資決定を行い、千葉事業所での建設に着手しています。完工目標は2027年中とされています。

一方の日産は、材料研究から生産技術までを自社内で進める垂直統合型で、2028年を目指しています。同じ時期を狙いながらアプローチが対照的なのは、見ていて興味深いところです。

性能目標の読み方

2023年のToyota Technical Workshopで示された目標は、急速充電でSOC10%から80%まで10分以下、航続距離は同社が同時開発する次世代電池のパフォーマンス版と比べて20%向上(研究段階の上位仕様では50%向上)というものです。

ここで注意したいのが、報道でよく見る「充電10分で航続1,200km」という数字です。これはトヨタ自身が公表した値ではなく、複数の仮定を組み合わせた推算です。充電インフラ側の制約を考えても、そのまま受け取れる数字ではありません。この種のニュースを読むときは、企業の公表値と、メディアが計算した数字を分けて見る必要があります。

中国勢は別のルートを通っている

この3年で最も対比が鮮明になったのが、日本勢と中国勢のアプローチの違いです。

日本勢が硫化物系の完全な全固体化を目指しているのに対し、中国では液状電解質を数%から十数%残した「半固体電池」を先行して車載する動きが進んでいます。プレミアムEVに搭載して実走行データを集めながら、段階的に固体化を進めるという考え方です。

この違いが効いてくるのは、まさに上で挙げた「工法」の部分です。半固体であれば、既存のリチウムイオン電池の生産ラインを一部改修するだけで製造できます。初期投資を抑えながら量産に入れる。対して完全な全固体化は、加圧や積層といった液系にはなかった工程が必要になるため、専用ラインを一から作ることになります。

性能の理論値では全固体が上でも、既存設備を流用できるかどうかは量産の現実性を大きく左右します。全固体電池のニュースを追うときは、材料の話だけでなく「その工程は既存ラインの延長線上にあるのか」という視点を持つと、実用化までの距離が見えやすくなると思います。

まとめ

期待されている全固体電池について解説しました。技術的なところは厳密には異なる部分もありますが、大枠を掴むのに使っていただければと思います。電気自動車用の電池としては2027〜2028年にトヨタが量産にチャレンジしているので、これからも目を離せない分野になりそうです。

-キャリアデザイン, 仕事

GooDeveLuckをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む