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新製品開発の難所は量産化:試作でできたことが、量産でできない理由

 新製品開発のプロセスは、アイデア創出、コンセプト評価、設計と試作、試験と改良、生産準備、市場投入と説明されるのが一般的です。

この流れ自体は正しいのですが、製造業の実感とは重心がずれています。実際に最も時間と費用がかかり、計画が崩れやすいのは、試作から量産に移る段階です。この記事ではそこに絞ります。

「できる」と「安定してできる」は別の問題

試作と量産では、求められることがまったく違います。

  • 試作:狙った性能のものが1個できればよい。熟練者が時間をかけて、手で合わせ込むことも許される
  • 量産:毎回同じものができなければならない。しかもタクトタイムの中で、決められたばらつきの範囲に収めて

試作で良品ができたことは、その製品が作れることを証明しただけで、量産できることは証明していません。この2つの間には、想像以上の距離があります。

開発の現場で「試作ではうまくいったのに」という言葉が繰り返されるのは、この距離を試作段階で見積もれていないからです。

量産で問われるのは、工程能力

量産に耐えるかどうかを判断する指標が、工程能力指数(Cpk)です。規格の幅に対して、工程のばらつきがどれだけ小さく、中心に寄っているかを示します。

試作で良品が出ていても、ばらつきが規格に対して大きければ、量産では一定の割合で不良が出ます。1個ずつ見れば合格でも、1万個作れば外れるものが出てくる。

目安として、Cpkが1.33に届かない工程は全数検査が必要になることが多くなります。そして全数検査は、検査の工数とタクトタイムに直接跳ね返ります。工程能力が足りないことは、品質の問題であると同時に、コストと生産能力の問題でもあります。

→ 品質管理の基本と実践:検査頻度の決め方、不良が流出する条件、検査手法の選び方

試作で吸収されていたばらつきが、量産で表に出る

試作の段階では、材料のロット差、設備の微妙な状態の違い、部品の寸法のばらつきを、担当者が無意識に吸収しています。少し具合が悪ければ条件を調整し、合わないものは選んで使う。

量産ではこれができません。人が吸収していたばらつきが、そのまま製品に現れます。工程を自動化したときに、それまで見えていなかった前工程のばらつきが表面化するのと同じ構造です。

→ 製造業のDXが現場で止まる理由:IoT・AI・自動化を入れる前に見るべきこと

だから量産化の検討では、試作のうちに「誰が、何を合わせ込んでいたか」を洗い出すことが重要です。その合わせ込みを、設計で不要にするか、工程で自動的に実現するか、あるいは検査で担保するか。どれかを決めないまま量産に入ると、立ち上げの段階で同じ問題に何度もぶつかります。

量産性は設計段階で決まる

量産で苦労する原因の多くは、実は設計の段階で作り込まれています。

分かりやすいのが公差です。性能を確保するために公差を厳しく設定すると、試作では何とか収まっても、量産では工程能力が追いつかなくなります。一方で、公差を広げても性能に影響がない箇所まで厳しくしていることもあります。

どこが本当に性能を決めていて、どこには余裕があるのか。設計者と生産技術が早い段階でこれをすり合わせておくことが、量産の立ち上げを短くする最も効果の大きい手段です。量産が始まってから公差を見直すのは、金型や設備の手戻りを伴うため、はるかに高くつきます。

新しい技術ほど、工程も新しい

この問題は、新しい技術を使った製品ほど深刻になります。

全固体電池がよい例です。固体電解質という材料が見つかっても、それだけでは量産できません。固体と固体の界面をどう形成するか、という工程そのものが従来の液系電池と大きく異なるためです。液系では電解液が自然に染み込んで界面ができていたものを、加圧や積層で作り込まなければならない。

材料の研究が進んでも実用化までに時間がかかるのは、量産の工程を一から作る必要があるからです。「材料ができれば製品になる」という理解は、量産の実態からずれています。

→ トヨタが量産を目指す全固体電池とは

また、製品が大型化するほど難度は上がります。容量の大きな電池は、内部により多くの材料を使っています。材料の量が増えれば、その中での不均一さも大きくなる。1つの製品の中のばらつきと、製品同士のばらつきの両方を抑える必要があり、大型化は量産の難しさを二重にします。

→ 電池のこれから 電池の中身の話

検査の方法も、量産前に決めておく

量産に入ってから検査方法を考えると、間に合いません。何を、どの頻度で、どの手法で検査するのか。試作の段階から並行して決めておく必要があります。

判断の軸は、量産ラインでも変わりません。不良を確実に検出できることは前提として、タクトタイムに収まるか、過検出が出ないか、導入した担当者がいなくなっても運用が回るか。試作で使っていた評価方法が、量産の検査としてそのまま使えるとは限りません。試作では時間をかけて精密に測れても、量産ではタクト内に収める必要があるからです。

検査装置の導入が必要になる場合は、その投資判断も量産計画の一部になります。

→ 設備導入の稟議が通らない理由:製造現場で投資を認めさせる書き方

まとめ

  • 新製品開発で最も時間と費用がかかるのは、試作から量産への移行
  • 試作で良品ができても、量産できることの証明にはならない
  • 量産に耐えるかは工程能力で判断する。不足すれば全数検査となり、コストとタクトに跳ね返る
  • 試作で人が吸収していたばらつきは、量産で表に出る。誰が何を合わせ込んでいたかを洗い出す
  • 量産性は設計段階で決まる。公差は設計と生産技術で早めにすり合わせる
  • 新しい技術ほど工程も新しく、大型化するほどばらつきの制御は難しくなる
  • 検査の方法は、量産前にタクトと過検出の観点で決めておく

アイデアを製品にすることと、製品を量産することは、別の仕事です。開発の成否は、後者をどれだけ早い段階から見越しているかで大きく変わります。

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