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製造業の人材育成:OJTが先輩次第になる問題と、手順書に書けないものの渡し方

 人材育成の手法として、OJT、eラーニング、シミュレーション、クロストレーニング、外部研修といった選択肢が挙げられます。それぞれに利点があるのは確かです。

ただ、実際に現場で問題になるのは手法の選択ではありません。どの手法を採っても、うまくいくときといかないときがある。その差がどこにあるかを書きます。

OJTの構造的な弱点

製造現場の育成は、実質的にOJTが中心です。現場で実務を通して覚えるのが最も早く、確実だからです。

しかしOJTには、避けがたい弱点があります。

教える内容が、先輩次第になる

OJTで伝わるのは、手順書に書かれた標準だけではありません。その先輩の仕事の進め方が、そのまま新人のベースになります。良い部分も、そうでない部分も含めて。

段取りの組み方、確認のタイミング、どこまで疑ってかかるか、異常をどの時点で報告するか。こうしたものは手順書には書かれておらず、しかし仕事の質を大きく左右します。それが指導担当によって違う。

結果として、同じ職場で同じ期間を過ごしても、誰に付いたかで到達点が変わります。本人の能力ではなく配属の運で差がつく、という状態です。

指導する側は、教育のプロではない

もうひとつ重要なのは、指導を任された先輩は、教えることの訓練を受けていないという点です。

仕事ができることと、教えられることは別の能力です。自分が無意識にやっていることは言語化しにくく、どこでつまずくかも分かりません。自分の通常業務も抱えています。

つまりこれは個人の問題ではなく、職場の問題です。「あの人の教え方が悪い」で終わらせると何も変わりません。教育の訓練を受けていない人に教育を任せている、という構造が先にあります。

対策の方向

この構造を前提にすると、打ち手はいくつか見えてきます。

  • 教える内容の標準を先に作る。何をどの順で、どの水準まで教えるのかを決めておく。指導者の裁量に委ねる範囲を狭くします
  • 複数の人に付ける。一人の流儀だけが刷り込まれる状態を避けられます
  • 指導する側にも支援を渡す。教え方の型、確認すべき到達点、指導にかかる時間の業務上の位置づけ。指導を善意に依存させない

最後の点は、5Sや安全活動と同じ構造です。標準作業の中に組み込まれていないものは、忙しくなった時点で削られます。

手順書に書けないものを、どう渡すか

技能の中には、文章にできない部分があります。

いつもと違う音に気づく。設備の様子に違和感を持つ。数字を見て「これはおかしい」と引っかかる。こうした感覚は、手順書に落とせません。だから技能伝承は難しいとされます。

技能そのものではなく、癖を渡す

ここで考え方を変えます。明文化できない技能を直接渡すことはできません。渡せるのは、その技能が育つための癖です。

具体的には、すべてをまず疑って「なんでだろう」と考える癖です。

なぜこの手順なのか。なぜこの値に決まっているのか。なぜここに置くことになっているのか。決まりごとをそのまま受け取るのではなく、一度理由を問う。

この癖があると、何が起きるか。「いつもの状態」を理由とセットで理解するようになります。そして理由を知っているから、条件が変わったときに違和感を持てる。異常に気づく力の正体は、実のところこれだと思います。

逆に、理由を知らないまま手順だけを覚えた人は、手順から外れた状況で何も判断できません。5Sで、なぜその置き場なのかを知らない人が入ってくると形だけが残るのと同じです。

これは個人ではなく、文化の問題

ただし、この癖は本人の心がけだけでは育ちません。質問が歓迎される職場かどうかで決まります。

「なぜですか」に対して「そういうものだから」「昔からこうだから」と返ってくる職場では、問うこと自体が割に合わなくなります。数回で聞かなくなり、言われた通りにやる人になります。

だから育成の設計としては、新人に「疑え」と言うより、先輩側が理由を答えられる状態を作るほうが先です。答えられない決まりごとが多いなら、それ自体が改善対象でもあります。

実課題で学ぶ形式が効く理由

座学よりも、実際の業務課題を題材にした教育のほうが定着します。理由は「実践的だから」という一言で片づけられがちですが、もう少し分解できます。

自分が担当しているテーマ、自分が着目した課題を深掘りしていく形式では、2つのものが同時に身につきます。

  • その課題そのものへの理解。深く掘るので、担当業務の解像度が上がります
  • 課題への取り組み方そのもの。一般的にどういう視点で課題に向き合うのか、その練習になります

本体は後者です。問題の定義の仕方、要因の絞り込み方、真因までの掘り下げ方。これらは書籍を読めば知識としては入りますが、自分の課題に当てはめる経験は代替できません。

知識として知っていることと、目の前の曖昧な状況に適用できることの間には距離があります。実課題での教育は、その距離を埋める作業です。

逆に、この形式が形骸化するのはこういうときです。テーマが上から与えられただけで自分ごとになっていない。資料を仕上げることが目的になっている。結論が先に決まっている。深掘りする対象に本人が関心を持っているかどうかが、成否を分けます。

→ トヨタの問題課題解決手法

手法は単体では成立しない

冒頭に挙げた手法は、それぞれ穴を持っています。組み合わせて補う前提で考えるべきものです。

  • OJT:早いが属人化する。教える内容の標準で補う
  • eラーニング・座学:知識は入るが適用できない。実課題での演習とセットにする
  • シミュレーション:安全に反復できるが、実機との差は残る
  • クロストレーニング:視野は広がるが、どの工程も中途半端になりうる。狙いを明確にして期間を区切る
  • 外部研修:新しい視点は得られるが、現場で使う機会がないと消える。戻ってから適用する場を用意する

まとめ

  • OJTでは、良くも悪くも指導した先輩の仕事の進め方が新人のベースになる
  • 指導者は教育の訓練を受けていない。これは個人ではなく職場の構造の問題
  • 対策は、教える内容の標準化、複数人での指導、指導する側への支援
  • 明文化できない技能は直接渡せない。渡せるのは「なんでだろう」と問う癖
  • その癖が育つかどうかは、質問が歓迎される職場かどうかで決まる
  • 実課題での教育は、課題の理解と、課題への取り組み方の両方を同時に鍛える

育成がうまくいかないとき、原因を本人の意欲や指導者の熱意に求めても前に進みません。何が標準として決まっていて、何が個人の裁量に委ねられているのか。そこを見るほうが、打ち手は見つかりやすいと思います。

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