老後を安心して過ごすためには、必要な資金を事前に計算しておくことが重要です。今回は、老後に必要な資金の計算方法について詳しく解説します。
計算の考え方:支出だけを積み上げない
最初に、計算の枠組みをはっきりさせておきます。ここを間違えると、出てくる数字が実態からかけ離れます。
自分で用意すべき金額 = 支出の総額 - 収入の総額
当たり前のことですが、老後資金の記事では支出の積み上げだけで話が終わっていることがよくあります。生活費25万円×12か月×30年で9,000万円、といった数字です。この金額を見て不安になった方もいるかもしれません。
しかし老後にも収入はあります。年金は死ぬまで支給が続きます。ここを引かずに総額だけを見るのは、計算として成立していません。数年前に話題になった「老後2000万円問題」も、もとは収入と支出の差額を積み上げた試算でしたが、総額だけが独り歩きした経緯があります。
以下、支出の見積もり方を説明したあと、収入側の確認方法を説明します。
1. 生活費を把握する
まず、老後の生活費を把握することが必要です。現在の生活費を基に、老後の生活スタイルを考慮して計算します。例えば、食費、光熱費、通信費、趣味や娯楽費などを含めて計算します。
計算方法:
- 現在の月々の生活費をリストアップします。
- 老後の生活スタイルを想定し、変動する可能性のある費用を調整します。
- 月々の生活費を年間の費用に換算し、さらに老後の年数(例えば、20年や30年)を掛け算して総額を算出します。
現役時代と比べて減る費目もあります。通勤にかかる費用、仕事関係の交際費、子供の教育費、住宅ローン。逆に増えるのは医療費と、時間ができることで使う費用です。単純に「現在の生活費がそのまま続く」と置くと、多めに出ます。
2. 医療費を見積もる
老後は医療費が増加する可能性があります。定期的な健康診断や病気の治療、介護費用などを見積もることが重要です。
計算方法:
- 現在の健康状態や家族の健康履歴を基に、予測される医療費を見積もります。
- 公的医療保険の自己負担割合と、高額療養費制度による自己負担の上限を確認します。
- 介護が必要になった場合の費用も、公的介護保険の自己負担を前提に見積もります。
ここで押さえておきたいのが、医療費には公的な歯止めがあるという点です。高額療養費制度により、1か月の医療費の自己負担には上限があります。上限額は所得によって変わり、70歳以上ではさらに区分が異なります。青天井に膨らむものではありません。
3. 住宅費を考慮する
持ち家の場合、住宅の維持費や修繕費、固定資産税などがかかります。賃貸の場合は、家賃が継続的に発生します。
計算方法:
- 持ち家の場合、年間の維持費や修繕費を見積もります。
- 賃貸の場合、現在の家賃を基に、将来的な家賃の変動も考慮して計算します。
- 住み替えやリフォームの可能性も考慮に入れておくとよいでしょう。
持ち家と賃貸では、老後資金の必要額が大きく変わる部分です。持ち家でローンを完済していれば住居費は維持費と税金だけになりますが、賃貸なら家賃が生涯続きます。ここは概算ではなく、自分の条件で計算する価値があります。
4. 余暇や趣味の費用を考慮する
老後は余暇や趣味に使う時間が増えます。旅行や趣味にかかる費用も計算に入れておくことが大切です。
なお、退職直後は活動的で支出が多く、年齢が上がるにつれて外出や旅行が減っていく傾向があります。「30年間ずっと同じ額を使う」という前提は実態と合わないことが多いので、期間で分けて考えると精度が上がります。
5. 収入を確認する(ここが最重要)
支出を積み上げたら、次は収入です。この確認をして初めて、自分で用意すべき金額が出ます。
① 公的年金
最大の収入源です。金額は加入期間や納付実績によって人それぞれなので、推測せずに実際の見込額を確認してください。
- 毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」に、年金の見込額が記載されています
- 日本年金機構の「ねんきんネット」に登録すれば、いつでも確認でき、受給開始年齢を変えた場合の試算もできます
年金は終身で支給されるという性質が重要です。貯蓄は使えば減りますが、年金は生きている限り続きます。「長生きするほど資金が足りなくなる」というリスクに対して、最も効く備えになっています。
また、受給開始を遅らせる(繰下げ受給)と、1か月あたり一定の割合で受給額が増え、その増額は生涯続きます。逆に早く受け取る(繰上げ受給)と減額されます。制度の詳細は改正されることがあるので、日本年金機構の公式情報で確認してください。
② 退職金・企業年金
勤務先の制度を確認します。金額だけでなく、一時金で受け取るか年金形式で受け取るかによって税制上の扱いが変わるため、就業規則や人事部門で確認しておく価値があります。
③ その他
定年後も働く場合の収入、iDeCoや個人年金、資産の運用収入なども含めます。定年後に数年働くだけでも、必要額はかなり変わります。
6. インフレを考慮する
物価が上がれば、同じ生活をするのに必要な金額は増えます。長期の計画では無視できない要素です。
ただし、支出だけを物価上昇分だけ増やすと過大な数字になります。押さえておきたいのは次の2点です。
- 公的年金にも物価や賃金に応じた改定の仕組みがある。物価上昇にそのまま連動するわけではありませんが、まったく据え置かれるわけでもありません
- 資産運用のリターンも名目では上がりうる。重要なのは「運用リターン - 物価上昇率」という実質のリターンです
現実的なのは、細かく予測することではなく、定期的に見直すことです。5年に一度でも数字を更新すれば、大きくずれることは避けられます。
まとめ
老後資金の計算は、次の順序で行います。
- 生活費、医療費、住宅費、余暇費から支出の総額を見積もる
- ねんきん定期便やねんきんネットで年金の見込額を確認し、退職金やその他の収入を加える
- その差額が、自分で用意すべき金額になる
- インフレは細かく予測するより、定期的に見直すことで対応する
支出だけを積み上げて出た大きな数字に不安になる必要はありません。まずは自分の年金見込額を確認するところから始めてください。それだけで、必要な準備の規模が具体的に見えてきます。
必要額が見えたら、次は準備の方法です。続きの記事で解説しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度の内容は改正される場合があります。実際の金額や条件は公式情報でご確認ください。